一宮市立三岸節子記念美術館での、
親子の「糸でんわ」鑑賞。
無事終了しました。
6月から幾度か実験を行ってきましたが、
その甲斐あって、非常に実りのあるプログラムになりました。
親子の鑑賞体験を、大きく変えるプログラムになりました。
人前で話すのが苦手な子も、絵を見るのが得意でない子も、
集中ができない子も、関係ありません。
プログラムが終わると、参加者はほぼほぼみんな、
日常的に親子で鑑賞を楽しめるようになれます。
どうしてそんなことが起こるのか。
種明かしをすると、それはこの鑑賞方法が、
子どもの鑑賞レベルを向上させるものが主目的ではなく、
親が自身の子を認知する姿勢をほぐすために考えられたプログラムだからです。
子どもの素養はあまり関係ありません。
この4日で確信したことは、
ほとんどの場合、どの子どもさんも、ひとりでに作品から多くの情報を得て、
またそこから様々なことを想像しているということでした。
鑑賞の環境と、思考のアウトプットの仕方を丁寧に、
かつ彼らに敬意を持って整え、
鑑賞においての彼らの振る舞いを注意深く見守れば、
非常に興味深い感想やアイデアが、どんどん出てきます。
しかし、多くの場合、子どもの自由な鑑賞状態は、
「ふらふらしている」「手遊びしている」「よくわからないことを言っている」
などとカテゴライズされて、イコール「ちゃんと鑑賞できていない」とみなされる事が、
残念ながら多々あるようでした。
親が思い浮かべる「よく見る」という振る舞いに該当しない行為をすると、
手や頭をグイと引っ張られ、
「ちゃんとしなさい!」と注意されるような現場に幾度が遭遇しましたが、
それらの行いが、彼らがそもそも持っている、
豊かな鑑賞をもっとも阻害しているものだと感じました。
一瞬しか見てないようでも、何も考えないようにいても、
彼らは我々よりもずっと多様で、面白い鑑賞をしているかもしれない。
そんな想像力をもって、大人がすこし、口や手を挟むことを我慢すれば、
驚くほど面白い鑑賞体験がそこに現れます。
よく見ていなかったのは、子供達ではなく、我々の方でした。
子どもの振る舞いではなく、親の受け止め方が課題で、
少し気になる子どもの行動も、何か面白い鑑賞の予兆だと思えば、
「絵をよく見ていない」と判断される子はいなくなるでしょう。
親の認知のあり方に、向き合う機会を設ければ、
親自身が問題と考えていた行動は、問題でなくなり、
むしろその子の魅力や、持ち味として見直されるものになるかもしれません。
そう気づくための仕掛けがたくさんあるのが、この親子の「糸でんわ」鑑賞です。
日本ではなぜか「対話型美術鑑賞」と訳されている「VTS」をベースにしながらも、
その特殊性や、管理の課題を乗り越え、
従来のVTSにある「学び」の内面化に立ち返り、
VTS的な対話による学びや気づきのシステムを、
書き換え可能な形にして、親子に手渡すプログラムです。
細かい部分を省いたざっくりとした運用法を以下に記しておくので、
興味のある方は、試しにやってみてください。
概要:
親子で決まった時間、絵を見てもらい、
「糸電話」で絵のことについて対話してもらいます。
その後集合し、親にどんなことを話したのかをみんなの前で話してもらいます。
鑑賞はを練習、本番の2回行い、最後に親と今日のおさらいを行って、
親子で楽しく絵を見る方法を持ち帰ってもらいます。
参加者:
親子5組前後 (マンツーマン推奨。親1人に対して、子2人などでも可。)
ファシリテーター1人
対象年齢:
年長以上、小学生以下推奨 (本人のやりたい気持ちが強くあれば、この限りではない)
準備:
・糸電話(糸の長さ30~40cm)
・鑑賞対象となる2つの作品(練習用:具象的な作品、本番用:抽象的な作品)
・鑑賞対象となる絵の複製品(画集やポストカードなど)
<子ども美術館での3つの約束>
・はしらない
・さわがない
・さわらない
プログラムの流れーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「練習パート」 15分程度
鑑賞対象:具象性が高い絵
◆鑑賞タイム 5分
子は親に、絵を見てわかったこと、考えたことを糸電話で話します。
親は子の言っていることを、しっかり聞きます。
また、以下のような質問をして話を広げてみるのも良いでしょう。
質問例)
・何が描いてあるか教えて。
・どうして〇〇と思ったの?(理由)
・他には何がある?
◆発表タイム 10分
参加者で集合し、鑑賞した作品の複製を使って発表します。
親は子と何を話したのか、また子はどんな様子だったのかを話します。
子は訂正や、話したいことがあれば話します。
「本番へ向けてのヒント」を提示する
・キャプションをいつ見るか、見ないか決めると良いかも。
・近づいて見る、離れて見ると見え方が変わるかも。
・自分が絵を描く時と比べてみると良いかも。
・「集中の谷」がある。(一度だれても、そのうち復活するから焦らない)
「本番パート」 25分程度
鑑賞対象:抽象度が高い絵
◆鑑賞タイム 10分
◆発表タイム 15分
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ここから最後の約10分間、親子別々のワークに入ります。
◆子:絵の断片から、どの絵かを見つけるワークシートを使って、展覧会場を散策します。
◆親:鑑賞の振り返りを行い、今日のプログラムの整理をします。
子どものペースに合わせて鑑賞すること=
子ではなく、親の忍耐や我慢が必要であること。
発言内容に拘泥するより、
まず絵を見ながらコミュニケーションすること自体の楽しさを共有する。
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以上。