しば〜らくやってなかった「いちまいばなしのうらばなし」を久しぶりに更新します。
今回は「いちまいばなし」の図解みたいな感じで、実施にあたって司会進行役の僕自身が、どんな風に思惑を巡らせて参加者とやり取りしているのかを赤裸々に記してゆきます。結構長文です。
「いちまいばなし」虎の巻
この文章は、「いちまいばなし」を経験、または伝聞し、その実施を願ってやまない諸子のための文章であり、「いちまいばなし」の基本的な流れ、司会進行役の極意を記した物である。これを基本に鍛錬に励み、さらなる即興物語作りの世界への探求を行っていただきたい。
*「いちまいばなし」の大枠については、以前説明したので以下のページを参照していただきたい。
「いちまいばなし」はいつも何も無いところからの物語作りである。ポイントは、最初の舞台設定、物語の雰囲気の土台となるところをまず作ってゆく事だ。以下は、司会者の質問内容を大きく9つに分類し、それらを使用しながら基本的な物語の組み上げ方について説明した物である。
第1段階
基本的に「誰が「主体」、どこで「場」、何を「行為」しているのか。」という事を骨格にして「いちまいばなし」が始まる。よって、まずは「主体」「行為」「場」という3つの要素を参加者から聞き出してゆくというのが基本の始まり方である。(この要素のどれかが、最初に提示されたお題の中に入っている事も多い。)また、この3要素を問いかける順番は順不同である。
「主体」『だれ(何)が?』
物語の中心して行動する物。動物や非生物等には人格が与えられ、擬人化される事が多い。
質問例:「そこには何がいますか?」
「行為」『どうした?』
主体が行うものごと。
質問例:「それは何をしていますか?」
「場」『どこで?』『どんなものがある?』
物語が進行している状況、情景等。
質問例:「それはどこですか?」
「そこには何がありますか?」
「どんなところですか?」
第2段階
まず上記3要素で1つの文章を作る。多くの場合は、だいたいここですでに何か変な状況になっている事が多い。さらに、この3つの要素をできるだけ具体的に、物語のイメージが膨らみそうなところまで掘り下げてゆく。セオリーとしては、最初のステップで物語の舞台を組み立てつつ、2ステップ目は、「行為」の「対象」とその「反応」へ目を向けてゆくのが良いだろう。
「対象」『何に?』『何と?』
最初のステップで出てくる「行為」には、行う「対象」が伴う事が多いのでそこを明らかにしてゆく。行為の向かう対象だけでなく、誰と?と聞く事で「主体」を増やす役割もある。
質問例:「ご飯を食べる」=何を?or誰と?
「飛んだ」=どこへ?
「反応」「結果」『どうなった?』『どうした?』
「主体」の「行為」対象に行使されたとき、どんな事が起こったのか?主体、対象はどう感じたのかを問う。
質問例:「『主体』が、『対象』に、『行為』をしたら、どうなった?」
第3段階
「『主体』が、『場』で、『対象』に、『行為』をして、『反応』した。(『結果』になった)」
ここまでくれば、物語の大筋ができた様な物。後半に話がこんがらがっても、そもそもは・・・と戻って来れる文脈ができた。また、ここまで話のリレーをしてくると、だいたいの話が異様な要素を含む物になっているはず。後はあなたや現場の人が興味を持った部分を軸に展開させて行けば、即興物語「いちまいばなし」が出来上がってゆく。
「理由」『どうして〜した(なった)の?』
物語の中の出来事や、行為について、なぜそんな風になってしまったのか、なぜそんな事をしたのかを問う。
質問例:「どうしてそうなったの?」「どうしてそんなことをしたの?」
「方法」『どうやって〜するの?』
ある意図を実現させるための方法について問う。
質問例:「○○するにはどうしたらいいの?」
「詳細」『どんな〜なの?』
出て来た物が抽象的なままでは、イメージがわきにくい事が多いので、それらをより具体的にする質問。
質問例:「何をした?」→「遊んだ」→「何をして?」
「どうだった?」→「よかった」「楽しかった」etc...→「どんなところが?」
「展開」『するとどうなった?』
ある程度話を続けてゆくと、あとは「どうなった?」という質問だけで話が進んでゆく場合もある。(ただ、そればかりで続けてゆくのは危険。どこかでリズムを変えた方が良い。)また、逆に話が安定、収束してしまい、続けようがなくなった時に、参加者に展開の全てを委ねて展開を丸投げする時もある。上記の「反応」や「結果」とも分類的にはかなり近しい内容だが、より漠然とその後について聞いている丸投げ感がポイントである。
質問例:「(それまでの展開の復唱)するとどうなった?」
具体的な物語を元に、そのやり取りの流れを検証してみる。
さて、以上が9つの質問の分類と、その用法についての解説であるが、いつまでもチャート的に説明していても埒が明かないので、ここで一つの話を例にとって具体的に司会者側の流れを分析して見よう。
音声入りの動画が上がっている「ツタンカーメンの罠」を題材に取ってみる。
テーマ「旅」
参加者:4人
周回:3周
参加者:4人
周回:3周
Q:どこへ向かう旅ですか?
A
:エジプトへの旅。
まず最初のお題が「旅」から始まった。なかなか珍しいモチーフである。おそらく言った本人は名詞の「旅」のつもりだっただろうが、ここでは動詞の「旅」として解釈した方が進行しやすいと判断し、司会の私は「旅」を「行為」にすり替え進行している。最初の質問は「旅」という「行為」を行う「主体」について聞いても良かったのだが、「どこへ向かう旅か?」と、あえて変化球で旅の目的地、すなわち行為の「対象」を聞いている。(「主体」「行為」「場」の3要素を最初にそろえる過程は、鉄板であるが故に参加者に読まれやすいというリスクもあるので、ときどきこのような揺さぶりをかけると効果的である。)「旅」のように移動を伴う「行く」「泳ぐ」「投げる」等の行為については、そのベクトルがどこに向いているのかを聞きやすい。またこの場合「行為」の対象を聞きつつ、同時に「場」を明らかにする質問でもある。
Q:ではその旅をしているのは誰ですか?
A:魚です。
「エジプト」という答えが返って来て、ここでやっと「旅をしているのは誰か?」という「主体」を聞く。すると「魚」という答えが返って来て、「エジプト」と「魚」という普段出会わないような関係が見えて来た。このような違和感を伴う関係は笑いを生み、後に「反応」「理由」「方法」など後に様々な問いかけに派生する可能性をもつ重要な物である。何より参加者全体が興味をそそられ、「どうやって?」という問いが自然に生まれる。(最初の「主体」を聞く際には、人間以外の登場物の可能性も示唆する意味で「誰ですか?何ですか?」と含ませて2重に聞くのが良いかもしれない。)
「魚」が「エジプト」への「旅」をする。という最初の3要素がここで揃った。ここで「この旅は一人でするの?」と聞けば同伴者(もうひとつの「主体」)が増えるかもしれないが、この3要素の面白さのみで話がまとまりそうだったので、ここは単独主人公のままで話を進めていった。3要素の面白みに不安がある場合はここら辺りで同伴者、主人公の相手役を出して関係性を広げると突破口になるかもしれない。
Q:ではその旅の始まりは?
A:プールです。
設定がそろったところで、もう少し状況を書き込んでゆく。まずは「どこから?」と出発地点を聞く。前述のような移動を伴う「行為」は「どこ」から「どこ」という始点と終点の2つの「対象」(「場」)を聞き出せるという、1答で2問できるおいしいワードである。
Q:では、プールからどうやってエジプトに向かいますか?
A:羽とジェットでプールごと飛んでいきます。
「プール」という答えが出て来たところで、先に浮かんだ「どうやって魚がエジプトに向かうのか?」という疑問を聞いてみる。(ここでは前の回答者がすでに「プールごと」という設定を示唆しているが…)カテゴリーで行くと「方法」についての質問となる。このように一見無理な状況においてどのように主体の意思を通すのかというところで「方法」について聞くのは非常に効果的で、時に参加者を悩ませる事もあるが、往々にして面白い解決策が帰ってくる事が多い。ここでは「空を飛ぶ」という案がまず出て来て、さらに「詳細」を聞く事で「翼とジェットで飛行機のようになって飛んでゆく」という案が出て来た。
Q:その道中はどんな様子ですか?
A:万里の長城が見えてきました。
ここで、また「行為」へ話題を戻し、目的地にすぐ着いてしまってはなかなか物語が膨らまないので、「旅の道中はどうだった?」という通過地点を示唆する問いかけを行った。このような質問は移動系の「行為」に対して想像を膨らませる有効な手段である。(逆に速攻で目的地についてしまうパターンもそれはそれで面白い。)
Q:さて、どうしましょう?
A:とりあえず下ります。
「万里の長城が見えて来た」という答え帰って来て、ここで、まだ魚がどうするのかという事についてはまだ明確でないので、念のため「どうする?」という「行為」について聞いてみると「着陸する」という順当な答えが返って来た。かなり慎重なやり取りだが、返ってきた答えの不明確な部分は、司会者側で勝手に解釈せずに、あえて確認するように参加者に聞いていた方が良い。ワンクッション置く事で、「逆に」という発想が生まれてくる事もある。(ただし、あまりにもここのやり取りを慎重に行いすぎると、場の雰囲気が滞る事もあるので注意が必要である。)
Q:着陸して?(どうなった?)
A:水ごと流れていった。
さて、魚は万里の長城に着陸し、ある程度物語の流れが収まってしまった。ここからもう一回話を動かしていくのにはちょっとパワーが必要である。このような時、描いた絵等を見渡して、まだいじりきれてない部分に戻ってそこから話を作ってゆく方法もあるが、今回は登場する要素がかなりシンプルなのでそういった事もできない。ということで、こんな時は参加者に展開を丸投げしてみる。「それでどうした?」という魔法のワードで、全ての責任を次の参加者に押し付けてしまう。話の展開が難しくなってしまったとき、司会者が一人で苦しむ必要はない。「いちまいばなし」は、生みの苦しみを他者と分かち合うためのメディアでもある。苦しいときは、それを独り占めせずに他の参加者にも分けてあげるべきである。
Q:流れていくとどうなった?
A:エジプトに着いた。
苦しんだ挙げ句、「万里の長城を水ごと流れてゆく」という展開が出てきた。これはまた移動系の「行為」にあたるので、「どこまで流れていった?」と向かう先(「対象」)を聞くのがセオリーだが、ここでは「どうなった?」ともう少し幅をきかせてその後の「展開」ごと聞いている。果たして返答は「エジプトに着いた。」とセオリー通り向かう先についての答えだったが、もう目的地までついてしまったという展開が笑いを誘っている。
Q:エジプトに着いた魚はどうしましょう?
A:ピラミッドの中で水を探します。
そのままエジプトに着いた魚。この辺りで参加者を1周して物語も中盤に入り、舞台設定や「いちまいばなし」自体のシステムについて参加者もつかんでくる時間帯。ここからは「どうしましょう?」「どうなった?」という「展開」について聞いてゆく事が多くなり、また参加者の答えも最初は単語くらいのものから、「行為」と「対象」、「主体」と「行為」等を同時に含んだ文章のような複合的な物になってくる。ここでも「ピラミッドの中(「場」)で水(「対象」)を探す(「行為」)」というように3つの要素を含んだ答えが出て来ている。
Q:果たして水はありましたか?
A:ピラミッドの内部が公共の銭湯になっていた。
Q:そこにはどんな物が入っていますか?
A:他の魚が入っていました。
「水を探す」というワードが出て来たので、「水はありましたか?」とその「行為」の「結果」を聞いている。これは回答が「ある・ない」の2択で答えられてしまうため、ある意味発展性に少し乏しい聞き方なのだが、前の参加者の答えが複合的な文章で、場が大きく動き始めて来たので、一旦ひと呼吸置く意味でこのような聞き方で間を刻もうという意図がある。(このような2択型の質問は、対話型のコミュニケーションプログラムの中ではその後の発展性が乏しい「閉じた質問」として敬遠されがちなのですが、「いちまいばなし」の中ではこのようにひと呼吸置く役割の他に、人前で言葉を発しにくいシャイな子供等にとりあえずプロセスに参加してもらうために活用する事がある。)しかし司会の予想に反して、だいぶ具体的な展開が返ってきた。これは嬉しい誤算。参加者がノって来ている兆候だ。さらに終盤のこの時点であと2人しか回答者がいないので、立て続けに「詳細」について聞き、クライマックスに向けてさらに状況を書き込む。
Q:そこへ来て魚はどうしましたか?
A:お風呂に浸かりました。
順当に銭湯についての魚の「反応」について聞き、シンプルな「行動」に対する答えが返ってきている。
Q:そして最後どうなった?
A:ツタンカーメンのお墓に備えられました。
めでたしめでたし?
さて、ここで最後の質問。「いちまいばなし」最後の質問は、ほぼ99%「そしてどうなった?」で終わる。司会というポジションにいて何となく全体をまとめる雰囲気を出しながらも、最後の最後に今までの流れをどうするのかという責任を全て落ち担当に負わせるという身のこなしがポイントである。そして、結果99%の場合どうにかなるものである。「いちまいばなし」のラストに「途中」、「中途半端」というものはない。順番がくれば、落ち担当が終わらせれば、そこで物語は終わる。この時、終わった感を大いに醸し出すのが司会者最後の仕事である。(鳴りもの必須)
というような流れで「ツタンカーメンの罠」という物語が完成した。魚がエジプトに旅をするという最初の3要素をまず作り、その方法、道中、目的地到着後の展開を聞きながら物語を組み立てて行ったのが大まかな流れである。今回のテーマ「旅」のような移動を主にした「いちまいばなし」の場合、もう少し道中での展開を膨らます中で、最初はよく分らなかった旅の目的等が見えてくる事も多いのだが、この話の場合は早めに目的地に着いたのでそこからの展開の方が長めの話となっている。またこの話の中では9つの分類のうち、「反応」と「理由」についての質問が無い。「反応」ついては「主体」が魚だけで、さらに移動がメインの話なので聞きにくい部分もあっただろうが、「理由」については、そもそもなぜ魚がエジプトへ向かおうと考えたのかという部分について流れの中で聞いてみても面白かったかもしれない。この話は、「いちまいばなし」の中では割合起承転結のような物がある分かりやすい話で、構造上なかなかこのようなまとまった物語が出来る事は珍しいが、会話のやり取りの裏にどのような攻防があったのかを知るのに役立てていただきたい。
需要なのは、もちろん参加者に丸投げの部分もあるが、司会も物語の流れをこうして行こうという明確な意志を持って進行してゆく事である。「いちまいばなし」はその実施方法より、流れの全てを参加者に任せているかのように思われるがそうではなく、司会も含めた参加者一人一人の「物語をこうしたい」という欲求の駆け引き、せめぎ合いによって成り立っている。思惑に乗るのか、裏切るのか。その攻防の先にあるのが、あのえも言われぬ物語のテイストなのである。
本日はここまで。